2018年12月15日に発行された、一般向けの小説です。
本の紹介
当書は、タイムマシンやタイムパラドックスなど、時間SFをテーマにした小説です。
時間SFの中でも、名作と名高い六作が収録されている短編集となっています。
手に取った理由
図書館お楽しみ袋の中に入っていた一冊です。
『時を遡る』というテーマに惹かれました。
感想
当書を読む前に『タイムマシンって実現できる?』という物理学本を書見していました。
そのため、ブラックホールと時間の関係性や、時間を移動したことによるタイムパラドックスの問題といった、その本で得た知識と照らし合わせながら楽しむことができました。
退屈の檻
火星人との闘いから帰還した主人公がタイムトラップにかかり、同じ日時の十分間を何度も繰り返す話です。
この話は約20ページしかなく、当書の中でも特に短い話です。
主人公の家族や生い立ちといった要素を省き、現状で起こっている出来事と関連する内容のみを書き連ねているため、スピーディに話が進んでいきます。
同時に、説明が端的で分かりやすいため、とても読みやすかったです。
難しい単語が出てこないのも、その要因かなと思いました。
ノックス・マシン
ミステリーと数学、そしてSFという三つのジャンルが入り混じった内容です。
一回の読了では内容の理解ができなかったので別日に読み直しました。
特定人物の掘り下げがされていたり、専門用語が多用されていたりするため、読むのに気合が必要です。
この物語の世界では、これまで幾度もタイムトラベルに成功しています。
しかし、タイムトラベルを行った人はパラレルワールドへ行ってしまうため、もともと存在していた世界線には戻ってこられない、帰ってこないことが問題視されていました。
そんな結果を覆し双方向のタイムトラベルを実現させるため、主人公が立ち上がります。
これから先も続いていくような、ロマンを感じさせる結末でした。
個人的には「世界は簡単に分岐したりしない」というセリフに、難しい用語でいっぱいいっぱいになっていた頭が開放された気分になりました。
ノー・パラドクス
タイムマシンが導入されている世界の話です。
時間旅行代理店を運営する主人公を中心に話が進んでいきます。
過去と未来の人物が入り乱れて、法的にもややこしいことになっている様子が描かれています。
これぞSF小説と言わんばかりに近未来的なシステムが複数登場し、文章を読みイメージしながら楽しむことができます。
自分も旅行をしている気分で読み進めていたのですが、終盤には何とも言えない複雑な気持ちになりました。
時空争奪
過去に異変が生じたことにより、現代にも変化が表れていくというホラー感あふれる話です。
徐々に変わっていく世界が読み進めるとともに表現されていて、映像映えしそうな作品だと思いました。
異形な存在の説明がわかりやすく想像しやすいとともに、話の不気味さに拍車をかけているところが面白いです。
終盤のダークな雰囲気や世界観が、荒川弘さんの漫画『鋼の錬金術師』に似ていると思いました。
ヴィンテージ・シーズン
洋風の陽気な雰囲気をまとわせ、芸術をテーマに据えた話です。
人間の残酷性がはっきりと表現されています。
それゆえに、立地が良くない家の価値が突然上がった理由に、事実としては納得できるが理由としては困惑しました。
今という時間がそれぞれに存在しているが故の価値観の違いが表現されていて、どちらに視点を置くかで思うところが変わりますね。
主人公の感じた絶望は胸に刺さるものがあり、その結末を思うと物悲しさを感じずにはいられませんでした。
五色の船
第二次世界大戦中の日本に現れたくだんと、寄せ集まった家族の話です。
未来を予言するくだんにタイムトラベル要素を結びつけている設定に、意外性を感じつつも納得できました。
一貫して家族との絆を描いているからこそ、もう戻れない世界へ思いを馳せる様が切なく、悲しい終わりとなっています。
しかし、お父さんが家族として迎え入れた息子や娘にさせてきたことはいかがなものかと思います。
時代が時代なので、お金のためと言われたらしょうがないのかもしれませんが。
まとめ
当本を読んで思ったことは、明るい話が少ないということです。
時間SFというテーマは暗くなりやすいのかなと思いました。
どの話も魅力的で面白かったのですが、個人的にグッときたのは『ヴィンテージ・シーズン』終盤の対立場面です。人間の本質が表現されていて最高でした。
また、それぞれの話が違った設定と世界観なので、この一冊を読んだ後の満足感は大きかったです。
時間SFって読んだことない、という人におすすめです。